ガラスの天井
[まあ座れや] 「トラン」シリーズ
2000年代、ワタシは技術営業としてシリコンバレーに出張することが多くなった。彼の地の半導体業界は、東アジア人とインド人が技術人材の中心である。そんな中で、珍しくベトナム人が立ち上げたAU社からお声が掛かった。最初の打ち合わせでコンタクトした人が「V.トラン」さんだった。初回の感触が良く、次のミーティング出てきた人達が「D.トラン」さん「W.トラン」さん。やたら「トラン」だらけで、ワタシは密かに「トラン・シリーズ」と呼んでいた。後日もう一回打ち合わせを行ったのだが、その時に疑問に思っていた事をVさんに質問した。「トラン一族の家族経営なのですか?」
大笑いのVさん、「いやいや、違います。『トラン』というのはベトナムに多い姓ですよ。ここのみんな他人です。皆、別の企業にいたんですが、スピンアウトしてこの会社を興したんです」。そしてすこし真顔になり、「アメリカ人の興した会社では、アジア人はトップになれないのですよ。だから飛び出して、アジア人だけの会社を作ったんです」。Vさん曰く、シリコンバレーには技術者としてはアジア人が多いが、経営者層にはあまり居ない。オープンな西海岸ですら人種の「ガラスの天井」がある。それを下から打ち破るのは困難だから、会社を興してのし上がった方が早い。幸い、成功したアジア人がエンジェル(ベンチャー投資家)になってアジア人のサポートをしてくれる雰囲気がこの地にはある、だからここで頑張るんだ。
結局この商談は成立せず、もう会う事はなかった。だが、なぜ日系の会社にわざわざコンタクトしてくれたのか?同じアジア人だから、か。これは2000年代の話だが、昨今(2025年)の相互排他的な世界情勢を見るにつけ、その原因となる根っこの部分は何も変わっていないのでは、と思う。それを認める事から始めないと、全員の不幸は永遠に続くんじゃないか。
真顔のトランさんの、暗い瞳を思い出す。
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